下剤に頼らない排便ケア
排便コントロールのアプローチ
安房地域医療センター
房総健康管理センター
センター長
神山剛一
全身疾患をもった高齢者に対する便秘対処法
この記事の概要
全身疾患のある高齢者では、病名だけで便秘対策を決めるのではなく、食事量、腸の動き、薬剤、ADL、排便姿勢への影響を確認します。個別の対応が必要になる場合は、インプット、トランジット、アウトレットのどこに関わるかを整理することによって、排便障害の主因が把握しやすくなります。
教科書には、便秘の原因となる全身疾患として、糖尿病、甲状腺機能低下症、慢性腎不全、神経疾患など、さまざまな病気が挙げられています。しかし、それぞれの病気ごとに便秘対策を考えようとすると、かえって整理が難しくなります。同じ病気をもっていても、病気の進行度、食事量、活動量、服薬内容、ADLの状態は一人ひとり異なります。全身疾患があるからといって、必ず同じような便秘になるわけではありません。
そのため、全身疾患をもった高齢者の排便ケアでは、疾患名だけで判断するのではなく、その病気が「食べる・運ぶ・出す」のどこに影響しているかを考えることが大切です。前の章で述べたように、排便はインプット、トランジット、アウトレットの3つに分けて整理できます。全身疾患による便秘も、この3つのどこに問題が起きているかを見ていくと、必要なケアが考えやすくなります。
まず、インプットの問題です。全身疾患により食欲が低下したり、食事制限があったり、嚥下機能が低下したりすると、便の材料となる食事量や食物繊維が不足します。食べる量が少なければ、つくられる便の量も少なくなり、排便間隔が空くことがあります。この場合は、便が出ないからといってすぐに下剤を増やすのではなく、食事量、水分量、栄養状態、口腔・嚥下の状態を確認する必要があります。
次に、トランジットの問題です。糖尿病による自律神経障害、神経疾患、活動量の低下、薬剤の影響などによって腸の動きが低下すると、便が大腸を通過するのに時間がかかり、硬い便になりやすくなります。一方で、下剤が効きすぎたり、栄養剤や薬剤の影響を受けたりすると、軟便や下痢になることもあります。排便回数だけでなく、ブリストルスケールを用いて便性状を確認することで、腸の通過が遅いのか、速すぎるのかを推測しやすくなります。
そして、アウトレットの問題です。脳血管障害後の麻痺、パーキンソン病による動作緩慢、関節疾患による移動制限、認知機能低下などがあると、便が直腸まで来ていても、トイレに行けない、衣服を下ろせない、座位を保てない、便意をうまく伝えられないといった理由で排便が難しくなります。この場合は、下剤だけで解決しようとするのではなく、トイレまでの動線、手すり、衣服、排便姿勢、座位保持、声かけの方法など、ADLに合わせた支援が重要です。
つまり、全身疾患をもった高齢者の便秘対策では、「糖尿病だから」「腎不全だから」と病名だけで考えるのではなく、その方の病気がADLに影響しているのか、内臓や消化管の働きに影響しているのかを見極めることが大切です。ADLの問題であれば、排泄動作や環境調整を支援します。内臓・消化管機能の問題であれば、食事量、便性状、腸の動き、薬剤の影響を確認します。多職種で情報を共有し、その方の生活と身体機能に合った排便ケアを組み立てていきましょう。
POINT 全身疾患をもった高齢者の便秘対策
- 疾患名だけで便秘対策を決めるのではなく、その人の状態を見る
- 全身疾患の影響を、インプット、トランジット、アウトレットの3つで整理する
- インプットでは、食事量、水分、栄養状態、口腔・嚥下を確認する
- トランジットでは、腸の動き、活動量、薬剤、便性状を確認する
- アウトレットでは、トイレ動作、衣服操作、座位保持、排便姿勢、便意の伝達を確認する
- ADLの問題なのか、内臓・消化管機能の問題なのかを分けて考える
- 下剤だけでなく、環境調整、生活支援、栄養、リハビリとの連携が重要である
update : 2026.09.04