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排便ケアの実践

高齢者のための排便体操

排便体操の有効性

ユニ・チャーム排泄ケア研究所

利用者のためになる「提案」

「排便体操」の開発とモニタリングには、現場の推進力(やる気)が欠かせません。理学療法士・小澤氏の提案によって、「利用者のためになることは、やってみよう」という意識が、経営層、現場の医師をはじめとする看護・介護のスタッフに生まれました。

そのきっかけとなったのが、小澤氏のレポートです。

便秘の予防に役立つ運動

社会福祉法人 博光福祉会 理学療法士 小澤 英雄

加齢にともない、便秘に悩む高齢者は多くなります。その原因は、消化器系の技能的・器質的な病気によることよりも、食習慣(食事量の減少や食物繊維摂取の減少など)、服用する薬の増加、運動不足など個人レベルでコントロール可能なものがほとんどです。

便秘の解消のためには、正確な原因の究明・アセスメントが必要ですが、今回は、年をとるにつれて活動量が少なくなり、筋力低下や不良姿勢が原因で生じている便秘に注目し、運動による便秘解消法を検討しました。

腹筋の力が弱かったり、猫背であったりすると、大腸は下がり気味になり、狭い腹腔に押し込められてしまうので蠕動運動も起こりにくくなります。その結果、適度な硬さの便が形成されにくくなります。また、出口(直腸)までたどり着いて滞っている便を押し出すには、「いきむ」ことが必要ですが、腹筋の低下によって十分な圧がかけられなくなります。そこで、腹筋の強化と不良姿勢の解消が必要になってきます。

「便秘解消のためには運動を取り入れるべき」ということが施設でもよく言われますが、その内容は、腹筋運動(仰向けになり、上体を起こす)や散歩などを指すことが多いと思います。しかし、実際に施設に入所されている便秘に悩む高齢者には、ベッド上での生活を余儀なくされている(いわゆる寝たきり)の方から、歩行可能なADLを備える方まで、かなりの幅があります。そこで、腹筋や散歩などの運動を導入しても、うまく実施できず挫折しているケースも見受けられます。ベッド上での生活を余儀なくされている方に、腹筋運動といっても無理があります。体力の低い高齢者には、その人の体力に見合った運動が必要です。そこで、ADL別に、便秘に役立つ運動プログラムを検討してみることにしました。

施設では、座位を自力でとれないレベルにある高齢者の多くが、便秘に悩んでいます。ヒトは動物であり、重力の世界で生きているため、腸の働きも重力がかかるときに最も活動しやすい仕組みになっています。また、普段からベッド上での生活が多い方は、活動量も極端に低いので、腹筋をはじめとする全身の筋力も衰えています。

こうした状況の高齢者には、まず座位をとることから始めます。まず、背もたれに寄りかかる状態で(あるいは介護者に支えてもらって)起き上がることで、腸が重力によって伸長され刺激を受け活性化されます。そして、少しずつ座位の時間を長くしていきます。次に、支えられながらでも背骨を伸ばします。時には、支える介護量を少なくしてバランスを崩すような刺激を与えます。ヒトは、こうしたバランスの崩れに対して反射的に姿勢を元に戻そうとする動きをとります。そのときに、自然に腹背筋が働きます。

背もたれに寄りかかりながらの座位姿勢でも、ゲーム感覚で、腹筋を働かせたり体幹の運動を促すことはできます。鼻から空気を吸い込みお腹を膨らませ、口から息を吐き出す腹式呼吸は横隔膜の上下を促し、腸管を刺激します。また、ベッドに横になっているときには、仰向けで両膝を立てた状態から、足を床から離して膝を胸の方に引き上げる運動をします。胸の方に引き上げるほど腹筋は強く働きます。この運動が難しい場合は、片膝ずつ行ったり、あるいは両手で膝を抱え込む方法もあります。

イスに座っていても、積極的に手足を動かす運動プログラムは考えられます。まず、イスに座ったまま足踏みをします。手を前後に大きく振りながら、歩く要領で交互に足を高くあげます。この時、前かがみになると腹筋があまり働かないので注意します。あるいは、座った姿勢で、片方の足をあげ、膝の下で手をたたくのも効果的です。左右交互にリズムカルに繰り返します。片手しか使えない場合は、ふくらはぎを触ります。

脳卒中等で、足があげにくい方は、車イスに座ったまま、足だけで漕ぐ(足を床につけ、膝を曲げることで車イスを前進させる)動作で、腹筋を刺激します。座位での運動が可能な方であれば、自分で体幹を曲げたり伸ばしたりする運動のほかに、ねじる動作も取り入れられます。タオルを絞るように、下腹部をねじるという今までと違った刺激を与えることができます。例えば、テーブルを背にして座り、上体をねじって背後に置かれた物を見てから手でつかみ、前を向く、こうした運動を取り入れることもできます。

このレベルのADLで、便秘に悩まれている高齢者のなかには、歩幅が小さく、すり足で歩いていて、あまり活動的ではない方が多いといえます。普段の生活でも、力いっぱい投げたり、押したり、蹴ったり、引いたり、踏んだりすることがない方が多いと思います。こうした動作は、見かけは手足の動きですが、体幹がしっかりしていなければ発揮できません。とりわけ、下腹部に力を入れて腰を安定させる必要があります。ちょうど、排便時の「いきむ」状態です。こうした動作は、体を動かすゲームやレクリエーション・スポーツなどの中に組み込まれていますので、こうした活動を通じて楽しく、笑ったりしながら無意識のうちに腹筋を鍛え、便秘の解消を図っていくことができます。

以上のように、ADL別にいくつかの運動を検討してみましたが、実行可能な運動や体操を個人別に日常生活に組み込んでいくと良いと思います。

一度便秘が解消しても、安心してしまい、また不活発な日常生活に戻れば、便秘状態に逆戻りしてしまいます。日々の心がけと継続が必要です。

毎日の生活の中に、腹式呼吸や股関節を強めに曲げる運動、体幹をねじる活動を、レクリエーションやゲーム、趣味の活動を通して取り入れ、続けていくことで、便秘の予防につなげていけると考えます。

小澤 英雄

社会福祉法人 博光福祉会 地域密着型介護老人福祉施設 寿里苑花舞の郷 理学療法士

資格

身体障害者スポーツ指導者 福祉用具プランナー 介護支援専門員 福祉住環境コーディネーター

国立療養所近畿中央病院附属リハビリテーション学院 理学療法学科を昭和61年に卒業。3年間は一般病院に勤務。その後は、身体障害者センターや老人福祉センターで、身体障害者スポーツの開発・普及や施設から地域社会への流れを作るために、当事者や社会への働きかけを行い、障害者や高齢者の在宅生活を支援してきた。介護保険制度がスタートしてからは、施設入所の高齢者と深くと関わるようになり、その流れの中で、今回の排便体操の発想も出来上がってきた。