排便ケアの実践
高齢者のための排便体操
排便体操の効果
ユニ・チャーム排泄ケア研究所
個々の利用者に応じたカスタマイズ
2006年10月30日~12月16日の1ヵ月半を、「排便体操」のモニター実施期間とし、運動量の減少が腸の働きを低下させている可能性があると医師が診断した利用者のなかから9名の対象者を選出しました。内訳は、床上生活グループ(すべての排泄がおむつ)4名とトイレ誘導グループ5名です。そして対象者ごとに、以下の個別アセスメントを実行しました。
- 排便トラブルによる利用者のQOLに及ぼす影響等の現状把握
- 排泄日誌から便秘の状態評価、下剤の投与状況、おむつの利用状況等の分析
- 排泄姿勢、排泄環境の観察
- 筋力(腹筋・背筋)、関節可動域(股関節、膝関節)の測定
- 現病歴、既往歴、要介護度、認知症レベル、寝たきり度の把握
- 日常の活動状況、食事内容、ADLレベル、生活歴、家族との関係などの把握
医師、看護師、理学療法士、介護スタッフのケアカンファレンスにより、前述の「ADL別排便体操プログラム」から、モニター対象者ごとに、排便体操のメニューをカスタマイズした「排便体操プログラム実施マニュアル」が作成され、それぞれの利用者の健康状態や生活リズムに合わせて、毎回10分~15分かけて実行されました。なお、体操の前後には看護師による腹部の状態確認が行われ、体操は、理学療法士の指導のもと、介護スタッフによって実施されました。
排便体操の効果
それぞれの利用者に実践した「排便体操」のプログラムとモニターの結果は、「排便体操モニター結果一覧」にまとめました。1ヶ月半におよぶ排便体操実践の結果として、いくつかの事例を通して以下のことが確認できました。
1.下剤の中止または減量
- モニター対象者9名のうち7名は、モニター開始前に、下剤をほぼ毎日定時内服していました。今回モニターを開始するにあたって、医師の許可のもと、イレウスの既往のあった2名を除く、5名で下剤の定時内服を中止しました。下剤を中止した5名のうち1名は、3日間中止したところで、本人から下剤服用の強い希望があり、4日目から定時内服を再開しました。残る4名に関しては、モニター期間終了までそのまま中止できたか、あるいは頓用に切り替えることができました。
- イレウスの既往のある利用者のうち1名は、下剤(マグミット)の定時服用と排便体操を併用しましたが、下剤の量を徐々に減量することができました。
- 下剤がなくても排便できることを、利用者自身が自覚できるようになりました。
2.排便習慣の確立
- 排便出現日の増加、1回の排便量の増加により、「決まった時間にまとめて排便」の習慣を取り戻し、生活が安定してきました。
- トイレ誘導の利用者で、腹筋を活用したトイレでの排便が増加しました。(便失禁の減少)
- トイレ誘導への申し出が増加しました。
3.便の変化
- 便の性状に変化がみられました。(泥状便、水様便の減少)
- 腸の蠕動運動が促進され、腹筋が強化されたことで、排便の回数が増えた、あるいは回数が減り1回の排便量が便失禁による「おむつ(外)もれ」が減少しました。(対象者全員のモニター開始前29日間のおむつ(外)もれの発生は9件、モニター開始後40日間の発生は1件)
4.その他の効果
- おならが増え、膨満感による苦痛が減少しました。
- 排便体操の効果が自覚できたことで、利用者の積極性・参加意欲の向上が確認できました。
ユニ・チャーム排泄ケア研究所
2000年設立。全国の施設・病院で排泄ケアの実態調査などを行いながら、医師、看護師、介護福祉士、理学療法士など社外専門家との共同研究活動も展開。
また、排泄ケアの知識や技術を広く社会に普及するため、学校や地域での啓発活動も実施している。