排泄ケア研究発表
施設全体で取り組む排泄ケア
尊厳ある排泄を目指して ~水様便から普通便へ~
医療法人社団芙蓉会 二ツ屋病院
看護師 岡山 麻乃
はじめに
高齢者の長期療養に伴う問題の一つに「便秘」が挙げられる。本病棟の入院患者様48名の平均年齢は85.7歳、日常生活自立度C2ランク31名と寝たきり高齢者が多く、定期浣腸や下剤を使用している方が3分の2以上を占め、便秘→下剤→下痢の悪循環が見られているのも現状である。今回、下剤使用により水様便が繰り返し見られたK氏の「排泄ケア」の見直しを行うため、病棟全体で取り組んだ事と経過を報告する。
患者様紹介
K氏 93歳 女性
平成15年脳梗塞左半身麻痺
平成20年脳梗塞右半身麻痺
要介護5 C2ランク 認知度Ⅳ ADL全介助 簡単な会話はできる
K氏は、便秘があり浣腸による排便コントロールを行っていたが、平成23年10月に主治医が変ってからはマグミット3錠/分3 シンラック毎日10滴の指示となり、多いときで1日2~3回、おむつからはみ出るほどの水様便が見られていた。食事接種量も5~10割とむらがあり、長男夫婦が面会時、昼食の介助をしていた。
目標
患者様に苦痛のない排便コントロールができる
方法
- 期間:平成24年7月17日~平成24年11月6日
- 実施内容
- スタッフ全員にアンケートの実施
- 排便日誌をつけ排泄状況、及びブリストルスケールを用いた便性状の把握
- 下剤使用状況の把握と下剤の見直し
- 食事摂取状況の把握と食事摂取量UPを目的とした介助方法の検討、食事の見直し
- おむつ交換の時間、パッドの種類、ゆりりん®による膀胱内尿量・残尿の測定
- チームカンファレンス施行(7/17、9/10、10/2)
- ご家族様に状況の説明を行う(9/10)
なお、全てにおいてスタッフ全員の把握と定着化を図る。
排便日誌からの分析・実施・評価
7月~8月
分析
- 水様便が朝5時・10時に多い。1日2~3回。
- 食事摂取量にムラあり。3~10割。口から吐き出す。
実施
- 朝8時までに排便があれば、シンラック中止。与薬の統一、看護師が行う。
- 7/17からKスプーン使用、食べやすいように工夫。
8月~9月
分析
食事摂取量が少ないにも関わらず、排便がないからとシンラック与薬している。
実施
- 前日20時~翌朝8時までに排便があり、水様~泥状便、多量~特量時。
前日の食事摂取量が半分以下。 - 食事は時間をかけて介助。
- 献立表に摂取量・介助時の状況を記入。
- 食事内容変更(捕食追加)。
評価
- 1~2日おきの排便・水様便から泥状便に変化。
- 食事摂取量は増えず低下。尿量減少。
10月~
実施
- アイスマッサージ開始。
- シンラック毎日3滴。
- 食事摂取量に応じて点滴施行。
- 捕食テルミールソフト、食物繊維(フルーツうらごし)。
評価
点滴施工後は、一時的に食事摂取量が増え、普通便がみられるになる。
結果
当初は、便回数しか記録に残らなかったが、ブリストルスケールを用いた排便日誌をつける事で、便の性状や下剤の効果がわかり、内服調整の目安となりスタッフ全員が同じ意識を持って関わることができた。また、取り組みを行っている間に排泄セミナーに参加し、毎日下剤を服用しても便が出ないときは、その下剤は効果がないために無駄であること、高齢者の排便周期は1日おきや4~5日であり個人差が大きく、それよりもブリストルスケールの普通便が排泄されることが重要である等、学んだことが大変参考になった。取り組みにより、水様→泥状→軟→普通便と性状に変化が見られるようになり、病衣や下着の汚染もなくなり、患者様の不快感の除去、スタッフの介護負担の軽減にも繋がった。
考察・まとめ
研究に取り組むまでは医師による下剤指示のため水様便も仕方ないと思い、便の性状についても介護職員からの報告に留まり、看護師が排便状況の充分な観察を行っていなかった。「なぜ?」と追求することもなく、アセスメントが不十分だった。ご家族のご意見に対しても「一生懸命しているのに」と思う気持ちが強く、現実と向き合う姿勢が足りなかったと思う。しかし、本事例から、私たちが行っていたケアは、ただ現状の問題点を応急処置的な方法で解決しようとするに留まっていただけと気づき、ご家族のご意見をありがたく受け止め感謝することの大切さも学んだ。
排便コントロールで重要なことは、個々の患者様の食事から排泄状況をチーム全体で把握することであり、排便日誌の活用・スケールを使用した便評価は、患者様の排泄ケアに有用であると考える。便秘=下剤ではなく排便体操や腰腹部温罨法・マッサージ・食事内容の検討を試み、他職種との連携と情報交換を行いながら、下剤に頼らない最良なコントロール方法を見つけていくことが重要である。このように、不必要な下剤使用を見直し、自然排便へとつながるように目標をたて、実践していく、それこそが「尊厳ある排泄」であるということを強く感じた。