排泄学エキスパーツ取材
夜間のより良い眠りのため、日中の覚醒と生活リズムを見直しましょう
広島大学大学院総合科学研究科
行動科学講座 教授
林 光緒 先生
夜間良眠の鍵は日中の覚醒にあり!
眠気がないのに早々に寝床につく。寝床にいても、よく眠れないから、昼間うとうとして、また寝つきが悪くなる。そんな悪循環に陥っている高齢者の方は少なくありません。眠りの質が悪ければ、健康を害するのみならず、日中の活動性や意欲も低下します。
睡眠の質と量を確保するため、まず心がけたいのが眠りを阻害しない環境づくりです。その人の尿量に合ったおむつを使い、肌触りの良いおむつを選んで、深夜の交換回数や不快感の低減に努めることが大切です。ただ、こうした取り組みだけでは十分とはいえません。じつは睡眠と表裏一体の覚醒、日中の過ごし方こそ、睡眠改善の鍵を握っています。
睡眠と覚醒には2つのしくみが関わっています。そのひとつが生体リズムを司る「体内時計」です。体内時計は昼夜の変化に同調しています。朝、体温が上がって覚醒し、昼は心身ともに活動状態に、夜には体温が下がって休息状態になります。そのため“夜になると眠くなる”のです。
もうひとつは、常に一定量の睡眠を確保しようとする「ホメオスタシス」です。起きて活動していると脳内に睡眠物質がたまり、眠気が誘発されます。入眠すると睡眠物質が減り、再び覚醒します。つまり“疲れたから眠くなる”のです。この体のリズムに生活リズムを合わせることが、睡眠改善の早道となります。
日中の過ごし方のポイントは?
そのため①規則正しく過ごして、生活リズムを保つ②体や脳に刺激を与えて、日中の覚醒を維持することが大切です。まず起床時や朝食時は明るい光をしっかり浴びましょう。昼間は離床して、散歩やストレッチなどの身体的な活動を行ったり、会話するなど他者と触れ合って脳を活性化させます。日中の眠気防止に昼寝は有効ですが、気をつけたいのは、その長さ。1時間以上の昼寝は心血管疾患やアルツハイマーなどのリスクを招くため、長く寝入ってしまいそうなら放っておかずに起こしてください。また不眠の元となる夕方の居眠りは厳禁。この時間帯に居眠りを防ぐプログラムを導入してみるのもよいでしょう。
より良いケアと健康のため、スタッフこそ良い眠りを
夜勤の多い介護スタッフの場合も、生活リズムをなるべく一定に保つよう心がけてください。夜勤明けの休日だからといって、だらだら寝ていたり、夜遅くまで出かけたりしては体内時計のリズムが乱れ、眠りに悪影響を与えて疲労が蓄積します。睡眠の質が悪いと感情の制御がきかず、ネガティブにもなります。人は人生の3分の1を眠りに費やしています。健康な睡眠を守り、ケアの質を高める上でも、ぜひ日中の過ごし方を見つめ直してみてください。
林 光緒
広島大学大学院総合科学研究科 行動科学講座 教授。1991年広島大学大学院博士課程修了。現在、広島大学副理事、学術博士。大学での講義や講演活動を通じて、睡眠に関する知識の普及にも力を注ぐ。著書に『睡眠心理学』 (共著 北大路書房) 『眠気の科学』 (共編著 朝倉書店)『睡眠習慣セルフチェックノート』 (共著 全日本病院出版会)などがある。
こちらの記事は、ユニ・チャームが病院・施設向けに配布している『ライフリーいきいき通信 2020年初春号』に掲載している内容です。