排泄学エキスパーツ取材
おむつからの軟便モレ!解決へのアプローチ
医療法人社団 俊和会 寺田病院
排便機能専門医
神山 剛一 先生
軟便につながる「見かけ上の便秘」への下剤使用
便が出ない=便秘ではありません。高齢者は、持病やADLの低下により、食事量が少なかったり、便の材料となる食物繊維や発酵食品の摂取が不足しがちです。このため、一定量の便がたまるまで時間がかかり、何日も便が出ない状態が続いてしまいます。ただしそれは「見かけ上の便秘」で、十分便がたまっているのに出ない「真の便秘」とは異なります。この見かけ上の便秘と真の便秘の区別がつかないため、「3日排便がなかったら下剤を使う」といった、画一的な排便管理になってしまうのです。便がたまっていないのに刺激性下剤を用いれば、下痢状の便が出たり、不要な便失禁を生じ、ご本人や介護スタッフの負担が大きくなります。
下剤を使用したらブリストルスケールで便性状をチェックする
そこで私は、下剤を用いた場合、ブリストルスケールで便性状をチェックして、薬の効果を判断することを推奨しています。出たか出ないか、量が多いか少ないかで判断するだけでなく、「その便がどのような状態で、どれくらい時間をかけて排泄されたか」を振り返ることが必要なのです。
便は消化管の通過時間によって、性状が変化します。短時間で通過すると軟便に、時間がかかると硬い便になります。多くの下剤は便の通過時間を早めます。タイプ6や7の泥状便や水様便であれば、非常に短時間で排泄されたことになり、下剤投与のタイミングが早すぎたと考えられます。その場合、まとまった便がたまっていなかった可能性も高く、投与間隔を空けたり、食物繊維の摂取量を増やすのも選択肢のひとつです。
一方、タイプ4に近いちょうどいい硬さの便が出たときは、下剤の量・タイミングが適切だと判断できます。3日以上排便がなく心配だからと下剤を使うのではなく、ブリストルスケールで下剤の効果を見極めてほしいと思います。
ただし、便秘ケアの方法は人それぞれ。直腸性の便秘では、摘便や浣腸が有効であり、どこにたまっているのかを診断し、適した処方を選びます。
多職種が力を合わせて一人ひとりの排便に寄り添うアプローチを
日常生活では、便の材料となる食物繊維をなるべく多く摂ってもらう、ベッド上でもできる筋力維持の運動やマッサージを行うなど、好反応が得られることを見つけて継続することが重要です。寝ているよりも座った姿勢のほうがいきみやすく、排便しやすいため、排便リズムを見ながら、トイレに誘導し、座位姿勢をとることにもトライしてみてください。いずれにしても、ブリストルスケールを用いた排便日誌などを有効活用しながら、高齢者の千差万別な排便に向き合い、試行錯誤を繰り返すことが何より大切です。どんなアプローチが最適か、関わる職種の皆さん全員が知恵を絞り、高齢者お一人おひとりのQOL向上を目指しましょう。
神山 剛一
医療法人社団 俊和会 寺田病院 排便機能専門医。1992年昭和大学医学部卒業後、英国St. Mark’s Hospital、昭和大学消化器一般外科、亀田総合病院等を経て、寺田病院 外科・胃腸科・肛門科医師、同日暮里健診プラザ予防医学管理センター副センター長。監修書に『うんトレ』(方丈社)がある。
こちらの記事は、ユニ・チャームが病院・施設向けに配布している『ライフリーいきいき通信2021年夏号』に掲載している内容です。