排泄学エキスパーツ取材
自立排泄ケアで人間らしさを取り戻す
医療法人社団 輝生会 初台リハビリテーション病院
石川 誠 理事長
排泄への自信が、明るい表情をつくる
「リハビリテーション」には、本来「人間としての尊厳を取り戻すこと」という意味があります。尊厳の根幹とは、食事と排泄です。その一つである排泄に不安がある方は、失敗を恐れて人前に出るのが嫌になったり、家から出られなくなったりします。人生の楽しみをなくしてしまう方さえいらっしゃる。排泄への不安が、生きることへの不安につながってしまうのです。トイレで排泄ができるようになると、自尊心と自信がよみがえり、表情も見違えるように明るくなります。「もっと人と関わりたい」「もっと人生を楽しみたい」という意欲も生まれ、外出にも積極的になるのです。自立排泄を目指すリハビリとは、人としてあきらめずに再出発するための原点といえるでしょう。
「自立・自律」のゴールとは?
幼児期に獲得し、その後何十年も続けてきた「自分の口で食べ、トイレで排泄する」という習慣が失われると、社会参加への意欲が低下したり、自らの存在価値を見失いがちになります。ですから、訓練室でのリハビリより、食事と排泄の自立を目指す、生活の中のリハビリこそ最優先なのです。
とはいえ、すべての方が元通りになれるわけではありません。「自立」には「自律」、「自分の意思に従って行動する」という「自己決定」の意味も含まれます。できないことを、どんな手段で補うか自分で決める。たとえば、「より安心できるよう、紙パンツを使いたい」と申し出る方がいらっしゃいますが、これも立派な「自立」ではないでしょうか。
心と体の回復を目指す、自立排泄への取り組み
急性期、回復期に比べ、維持期は目覚ましい回復が見えにくいけれど、日常生活の中で徐々にできることが増えていく時期でもあります。たとえば、便意や尿意がない方でも、タイミングを見てトイレにお連れすることで、徐々に感覚が戻るケースもあります。下着の上げ下ろしや便座に座るなどの運動そのものも、良いリハビリとなります。自立排泄ケアは、きめ細かな対処が必要で大変な作業ですが、実行すれば状態が改善される方は必ずいます。このようなケアが常識となるには、スタッフの充実と共に、医師・看護・介護・リハが対等な関係で協力し合う体制が不可欠です。介護スタッフの方々には、各施設での自立排泄ケアの取り組みについて、ぜひ積極的に発信していただきたい。それが、介護という仕事の専門性と魅力のアピールにつながるとともに、自立排泄の重要性を伝えることにもなるのではないでしょうか。
石川 誠
医療法人社団 輝生会 初台リハビリテーション病院 理事長。
リハビリテーション医学、脳神経外科学を専門とし、各地での講演をはじめメディアでも活躍中。著書に『高齢者ケアとリハビリテーション 回復期リハと維持期リハ』(厚生科学研究所)ほか、専門書の監修なども行っている。
こちらの記事は、ユニ・チャームが病院・施設向けに配布している『ライフリーいきいき通信 2015年初夏号』に掲載している内容です。『ライフリーいきいき通信 2015年初夏号』はPDFファイルをダウンロードできます。