排泄学エキスパーツ取材
リハビリパンツと自立排泄支援
茨城県立医療大学名誉教授
茨城県立健康プラザ管理者
大田仁史先生
笑顔と自信を取り戻す、自立排泄支援
「リハビリテーション」の語源は、ラテン語のRe-Habilis。Reには「再び」、Habilisには「ふさわしい・適した」という意味があります。つまり「年をとっても、障がいを負っても、その人らしく、尊厳をもって生きる」ことが本義です。医師である私は長年、やむなくおむつをあてられ、つらく悲しい思いをされた方を数多く見てきました。本当は這ってでもトイレに行きたいけれど、おむつでは行動が制限されるし、失禁・排便すれば動く気力、自尊心をもそがれてしまう。それに対して、漏れや匂いの不安が少なく、動きやすいパンツなら、「自分でトイレに行こう!」という意欲がわきます。1995年、自立排泄を応援すべく誕生した紙パンツに、私は『リハビリパンツ』と名付けました。たとえ身体が不自由でも「最期まで人としての尊厳を失うことなく、その人らしく生きてほしい」との願いを込めて‥‥。それから20年、今や多くの方がリハビリパンツで笑顔と自信を取り戻されており、大変うれしく思っています。
自立排泄の大前提は「10分座れる」「30秒立てる」
トイレに行き、自立排泄を行うための大前提は「背もたれなしで10分間座れる」「しがみついてでも20~30秒の間は立てる」ことです。この2つさえ可能なら、洋式トイレでリハビリパンツを上げ下ろしすることができる。そのためにも日頃から身体を起こして座り、下肢の筋力を落とさない生活を心がけてほしいと思います。車椅子に長く座る場合、もたれっぱなしにならないよう、時折は背もたれを使わないようにしてみる。ベッドから車椅子への移乗では、介助者がひょいと移してしまうのではなく、数秒でもよいので、ご本人の足の力を使って立ってもらう時間をつくる。何より、あきらめず、根気よく続けることが大切です。筋力低下を防ぐ日々の取り組みの積み重ねが、自立排泄に向けた最良のトレーニングとなるのです。
人間の尊厳を支える、かけがえのない仕事
自立排泄は、人間が人間らしくあるための原点です。自尊感情、裏を返せば羞恥心に関わる営みであり、的確なケア技術とともに、さりげない配慮が求められます。真にプロフェッショナルな介護は、技術と思いやりの両輪があってはじめて実現できるもの。とくに自立排泄のケアにおいては、果たして自分は、相手の心の機微や尊厳に根ざした対応ができているだろうか―――そうした自らへの絶えざる問いかけを忘れないでほしいのです。介護のための介護ではなく、自立と尊厳のための介護。そこにこそ、介護職を志した皆さんのやりがい、使命があるのではないでしょうか。利用者さまの笑顔、そして介護者としてのご自身の誇りのためにも、自立排泄支援を進めていきましょう。
リハビリテーションの専門家 大田仁史先生が語る「自立排泄の重要性」
大田 仁史
茨城県立医療大学名誉教授 茨城県立健康プラザ管理者
医療専門職を養成する日本で初めての茨城県立医療大学付属病院を立ち上げた、リハビリテーション医療・介護の第一人者。「老い」「介護」に関する講演活動や、自ら考案した「シルバーリハビリ体操」の普及にも力を注ぎ、全国に多くのファン、実践者がいる。1995年に発売された「リハビリパンツ」の名付け親でもある。
こちらの記事は、ユニ・チャームが病院・施設向けに配布している『ライフリーいきいき通信 2016年秋号』に掲載している内容です。