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排泄学エキスパーツ取材

おむつを外せる人のために、間歇導尿の普及を

NPO 快適な排尿をめざす全国ネットの会 理事長

京都市立病院 泌尿器科 部長

上田 朋宏先生

おむつを使用している高齢者たちが、本当に全員おむつが必要なのか、高齢者本人にとって快適な排尿とは何かを泌尿器科の専門医として現場で実践し、具体策の普及に努められる上田朋宏先生にうかがいました。

20年前におむつはずしを実践

今から20年前の1990年、当時私は650床ある高齢者患者が中心の総合病院に勤務しており、そのうち315名がおむつや尿道留置カテーテルを使用されていました。病室の片隅にはおむつが山積みにされており、定時になると若い看護師たちがおむつを交換していることに疑問を感じ始めました。現在ほどおむつの性能が高くなかった当時、おむつの装着は患者のQOLを損なうとともに、看護師の負担も強いることです。しかし泌尿器障害以外の病気で入院した患者であっても、高齢者であれば排尿障害があってあたりまえという風潮から、おむつを使用することに疑問を感じる医師も当時はスタッフもいなかったのです。

私は泌尿器科医の立場から、おむつがそれぞれの患者にとって本当に必要なのかを検査することから始め、排尿自立を目指す治療とリハビリを行い、90%の患者のおむつをはずすことができたのです。

その後、他の病院に移ることになり、5年後にその病院に戻ったとき、状況は私がおむつはずしを試みる前に戻ってしまっていました。そして20年経った今も、大きく変化してないのが実情です。

おむつが必要な原因を追究する

おむつが必要か不要かを知るには、おむつに排尿する原因を評価することが最も重要です。20年前はそれをされずに、当時のおむつはただトイレ代わりとして使用されているのが実態でした。

現在、おむつに排尿する原因の評価は、

①検尿で尿路感染の有無をチェックする

②超音波で残尿量を測定する

③蓄尿時の膀胱内圧を測定し、膀胱の活動性を調べる

という方法で進めます。

尿路感染があれば抗生剤で適切な治療を施します。

おむつをしているからといって、膀胱内の尿をすべて排尿できているわけではありません。残尿があると必ず尿路感染症を併発させるため、残尿をいかに排出するかが尿路感染を防ぐことになります。

そして残尿が起こる原因となるのが、膀胱の筋肉の活動異常です。膀胱の筋肉(平滑筋)は自律神経でコントロールされて、尿を溜めるときに緩み、尿を出すときには収縮するようにできています。しかし、脳梗塞や糖尿病、脊椎疾患などに罹ると自律神経の働きが弱くなり、膀胱平滑筋が過剰に活発になって頻尿や尿モレの原因となったり、逆に低活発になると尿を出しにくくなり、排出障害の原因となります。

これらの検査により膀胱機能の評価結果に基づいて、それぞれの患者に対し膀胱リハビリ療法を行います。膀胱の活動性に応じた薬物療法と、残尿を排出する間歇導尿、トイレへ移動するための運動機能を向上するための理学療法の組み合わせです。

この方法でおむつ使用者の158例を測定したところ、平均4カ月の治療期間で99%がおむつがはずれました。つまり、おむつをしている=排尿障害が起きている原因がわかれば、適切な膀胱リハビリ療法を施すことができ、トイレに行く運動能力が回復できれば、ほぼ100%排尿を自立させることができるのです。

間歇導尿の必要性

膀胱リハビリ療法を進めるなかで重要なのが間歇導尿です。膀胱の活動性が薬物療法によって回復されるまでは、膀胱に残尿が生じるため、それを排出する必要があるからです。

間歇導尿は尿道留置カテーテルと異なり、定期的に排尿する際にのみ導尿するため尿路感染の危険性も低く、間歇導尿による排尿を患者自身ができるようになれば、患者は外出したり社会参加することが容易になるなどQOLが格段に向上します。しかし、医療職、介護職の知識や経験不足から、在宅でも施設でも間歇導尿に対する適切な介助や指導などを得られずに、おむつや尿道留置カテーテルを余儀なくされているケースも少なくないのが実情です。

また、おむつ使用者の数に比して泌尿器の専門医が少ないことも原因です。排尿の自立は泌尿器科医だけの問題ではなく、排尿障害を引き起こす原因となる病気を診る内科医や看護師、患者と関わる介護福祉士や理学療法士などの理解と補助も必要です。

間歇導尿は医師の指導のもと、看護師、患者本人、家族のみが実施可能な医療行為であるため、医療職は患者や家族に適切な指導をすることが求められます。そこで、2005年「NPO法人 快適な排尿をめざす全国ネットの会」を設立し、間歇導尿に関わる医師、看護師、介護職等に対し、排尿の知識等に関わる講習を行い、試験に合格した方々をNPO認定の「快適自己導尿指導士」として認定しています。定期的にセミナーを開催していますので、是非ご参加いただければと思います。

継続的な看護体制が不可欠

膀胱リハビリ療法によって一度おむつがはずせて排尿の自立ができても、その後の介護力が不足していたり、家族の協力が得られないと、再びおむつ排尿に戻るケースも少なくありません。

その最大の要因は寝たきりです。寝たきりになるとトイレ代わりのおむつはどうしても必要となります。一度排尿の自立ができた方を寝たきりにしないための、運動機能のリハビリを継続的に行うことも大切です。

また、おむつを外せても、過活発膀胱の患者さんは急な尿意でトイレに間に合わなくなることもあります。こうした方には転ばぬ先のおむつ(失禁パッドなど)は必要な場合もあります。

治療をしても回復が見込めない人や、思うようにリハビリの成果が上がらなかったり家族の協力が得られないなど、おむつが必要な人はもちろんいます。

大切なのは、おむつを外せる人と外せない人の見極めで、前述のような評価検査を行ったうえでの判断なのか、安易におむつを使用していないか、患者に携わるすべての関係者が意識を持つことではないでしょうか。

上田 朋宏

京都府医師会理事。日本排尿機能学会理事。日本老年泌尿器科学会評議員、日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会評議員、京都大学医学部臨床教授(京都大学医学博士)。1987年産業医科大学医学部卒業。1990年に高齢患者のおむつはずしを実践した論文を発表。2001年、排尿障害の基礎、臨床、疫学に関する幅広い研究を行うことを目的とした排尿管理研究会を発足。2003年、約40ヶ国の医師や患者会が参加した、日本で初めての間質性膀胱炎国際会議(ICICJ=International Consultation on Interstitial Cystitis, Japan)を開催。2005年NPO法人 快適な排尿をめざす全国ネットの会を設立し、排尿に関する知識と方法論の普及に尽力されています。