排泄学エキスパーツ取材
動物との温かなふれあいは高齢者の笑顔と意欲を引き出します
赤坂動物病院 総院長
柴内裕子先生
安らぎをもたらす”伴侶動物”としての存在
犬や猫がいると、思わずなでてあげたくなることってありますよね。そんな思いが湧いてくるのには理由があります。犬や猫は太古の昔から人間の生活に溶け込み、ともに暮らし、心を通わせてきた一番身近な生き物です。そうした記憶が人類のDNAに深く刻まれているから、そばにいると笑顔になって声をかけたくなる。抱っこすればお世話もしたくなる。犬や猫は人間にとって”伴侶動物”なのです。こうした人と動物の深いかかわりに着目して、私たち日本動物病院協会(JAHA)では1986年以来、人と動物のふれあい活動(コンパニオン・アニマル・パートナーシップ・プログラム=CAPP)を続け、多くの方の笑顔を取り戻し、身体機能の維持や向上を実現してきました。
発語を促し、自立や行動意欲を引き出す名手たち
CAPP活動では、動物たちと獣医師、ボランティアが、ともに介護施設や病院を訪問します。昔は、犬や猫が畑や街角、庭などいたるところにいましたから、ご高齢の方はとくに懐かしく思われ、喜ばれるようです。動物とふれあうことで、子供時代の思い出や家族で動物を飼った記憶がよみがえり、自然と発語や笑顔が増えます。手足が不自由だった方がワンちゃんをなでたい一心で自ら手を動かし、やがてご自分でスプーンをもてるまでになったこともあります。
また、介助なしに立ち上がれなかった方が動物に会うためにご自分の力で立ち上がった光景も目の当たりにしました。動物とふれあうことで、人の脳内では前頭葉への血流が増し、生理機能を高めて心を安定させる”オキシトシン”という幸せホルモンが分泌されるとの研究報告もあります。皆さんの変化を目にするたびに私たち自身も驚き、動物たちは「発語を促し、自立や行動意欲を引き出す名手」であると実感してきました。
人と動物が良きパートナーになれる共生社会を
介護施設や病院への訪問は、実は動物たちも心待ちにしているのです。私たちが準備を始めると、自らキャリーに入って待っていたり、リードをくわえて駆けまわったりと大はしゃぎ。皆さんに褒められて、なでてもらえることが動物たちに大きな喜びと達成感をもたらします。活動に参加する動物は健康状態や性格、しつけなど厳しい条件をクリアしていますが、何より大切な条件は「人間が大好き」であること。この活動を通じて、人も動物もますますハッピーになれる好循環の輪が生まれています。動物は、高齢者の行動意欲や元気を引き出し、これからの超高齢社会で、とても大きな役割を果たしてくれる存在です。人と動物が良きパートナーとして助け合い、お互いのQOLを高めていけるように、これからも、高齢者医療、介護に関わる皆さんと協力して、そうした温かな社会を作っていきたいと考えています。
笑顔と意欲を引き出すアニマルセラピー活動 ~動物介在活動と動物介在療法のご紹介~
柴内裕子
1959年、日本大学農獣医学部を卒業後、1963年に赤坂動物病院を開業。
1986年に日本動物病院協会(現・公益社団法人日本動物病院協会)の第4代会長として、人と動物のふれあい活動(CAPP)をスタートさせる。現在、同協会相談役。2007年、IAHAIO(人と動物の関係に関する国際組織)特別賞受賞。著者『これからの犬の育て方しつけ方』(講談社)、『都会で犬や猫と暮らす』『子どもの共感力を育む』(ともに共著・岩波ブックレット)など多数。
こちらの記事は、ユニ・チャームが病院・施設向けに配布している『ライフリーいきいき通信 2017年特別号』に掲載している内容です。