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トイレ排泄の意義

ユニ・チャーム排泄ケア研究所

トイレで排泄することには、身体的側面、心理的側面、社会的側面、文化的側面で意義があります。洋式トイレの便座に座り、前傾姿勢をとり、足が開き、床につく姿勢が解剖学的に最も排泄に適した姿勢です。

排便しやすい姿勢の図 [排便に必要な3つのチカラ]1.便を動かすチカラ(蠕動運動)、直腸の収縮するチカラ 2.上から下へ落とすチカラ 3.いきむ(ふんばる)チカラ [排便しやすい姿勢]仰臥位:直腸と肛門の角度が直角になるので、折れ曲がったパイプの下から上に便を押し上げて排出することになる。足をつけるところがないので、いきめない。 前かがみ座位:直腸と肛門の角度が鈍角になるので、まっすぐなパイプの上から下へ、重力の法則に従って、便を落とすことになる。足を床につき、かかとをうかすことで、腹筋を使っていきむことができる。

特に、排便には3つのチカラが必要です。一つは、便を動かすチカラです。直腸に便を送るチカラ、直腸を収縮するチカラは、身体を起こした姿勢で促進されます。

また、2つ目のチカラは、重力の法則に従って上から下に排泄物を落とすチカラです。仰臥位の姿勢では、膀胱の尿のたまる部位は尿道口より下に位置します。また、直腸の便の溜まる位置も肛門より下にあります。重力の法則に反して、下から上に持ち上げて出すには大きな負担がかかります。また、直腸と肛門の角度も、仰臥位の姿勢では鋭角に折れ曲がってしまいます。前かがみの姿勢で便座に座ることによって、直腸と肛門の角度は鈍角に開きます。ロダンの考える人の姿勢をとることによって、便はまっすぐなパイプの上から下に落ちていきます。仰臥位の場合、折れたパイプの下から上に便を持ち上げ、絞り出さなければなりません。

そして、3つ目のチカラが、いきむ、踏ん張るチカラです。ベッド上の仰向けの姿勢では、足を固定して、呼吸筋と腹筋を使って、いきみ踏ん張ることができません。ベッドで排便している高齢者を観察すると、側臥位でベッドの柵に足をかけ、柵を握り締めて、唸っています。ベッドの上でおむつへの排泄を促すことは、排泄に最も適さない姿勢での排泄を高齢者に強要していることになります。

トイレ誘導、便座への移乗で重要なことは、高齢者に排泄に最も適した姿勢を提供することです。ただ、トイレに誘導して、便座に座らせるのではなく、足が開いているか、床についているか、前傾姿勢が保持できているか、そうした視線での介入が求められます。

また、排泄は自律神経の働きですから、トイレという密室でプライバシーが守られることによって、精神的に安定した排泄ができます。トイレで排泄することは心理面からも重要です。

そして、トイレで排泄することは社会に参加していくための、基本的なルールです。トイレ以外の場所で排泄してしまう人は、電車に乗ることも、買い物に行くことも許されません。日本では、ほとんどすべてのトイレが水洗化されました。日本人は毎日お風呂に入り、毎日下着を替える衛生的で清潔好きな民族になりました。自分の排泄物に接するのもほんの一瞬だけです。野菜の肥料に排泄物が利用されることもなくなりました。公園に犬のフンがあることも許さないほど、排泄物を忌み嫌う文化をつくりあげました。こうした社会環境、文化のなかで、排泄障害を背負って生活する高齢者の精神的負担には計り知れないものがあります。また、排泄物の処理をしなければならない介護者には物理的、精神的負荷がかかっています。

寄稿:船津 良夫(1998年~2017年 ユニ・チャーム排泄ケア研究所 主席研究員)