下剤に頼らない排便ケア
下剤の効果と問題点
腸閉塞と下剤
医療法人社団俊和会 寺田病院 神山剛一
腸閉塞と下剤の関係について、少し触れておきましょう。
腸閉塞には腸の動きが悪くなって起こる麻痺性のものと、腸の一部が狭くなったり折れ曲がったりして起こる機械的腸閉塞などがあります。
開腹手術後に見られる腸閉塞の多くは機械的腸閉塞で、小腸が腹壁や小腸同士で癒着することによって屈曲が強くなり、そこで流れが悪くなるものです。
腸閉塞にならないようにと下剤が投与されるケースがありますが、大腸に作用する下剤を使っても、癒着性腸閉塞の予防にはなりません。
下剤を使うことによって腸の動きが活発になれば、麻痺が原因の腸閉塞には効果あるでしょう。
但し水様便しか出ていない状態で下剤を続けるのは、患者さんにとっては効果より負担の方が大きいと言わざるを得ません。
また最近「宿便」という言葉がよく使われますが、その多くが誤ったイメージで用いられています。
宿便性腹膜炎や宿便イレウス、宿便潰瘍などという病名が存在するため、宿便を放置するとあたかも怖い病気に発展すると思われがちですが、宿便と呼ばれるコロコロした固い便は内視鏡を行えば、何ら自覚症状を持たない人や元気な高齢者でも観察することがあります。
しかしながら、このような重篤な病気は、実際には免疫力や全身状態の悪化から、もしくは腸管内圧の亢進や循環不全が加わるなど、複合した要因で起こります。診察時にたまたま宿便が認められたというだけのことで、宿便だけが悪さをするというわけでは決してないのです。
さらに別の問題として、「お腹が張る」という訴えがあります。
この症状は、便が貯まっていると誤解されやすいものの一つです。一般的に「お腹が張る」感覚を持つ人は、腸の中に便やガスが貯まっていると考えるでしょう。
しかしながら、「お腹が張る」と言う自覚は、必ずしも腸が膨れ上がる現象とは相関せず、時には「攣縮(れんしゅく)」と言って腸が細く収縮している場合もあるのです。
人はそのどちらかを区別する感覚を持ち合わせていないので、自覚症状だけでは厳密な判断はできないのです。
腸閉塞にしても、宿便にしても、腹部膨満にしても、とにかく便が貯まっていることが問題と考えられてしまいますが、腸の中に便がある状態はむしろ自然な状態です。腸の中の便が必ずしも悪さをするとは限りません、従って、下剤を使って必要以上に便を出すメリットはありません。
昨今の健康ブーム等で「便秘」に対する過剰な反応が背景にあるものと思われ、誤った危機意識は却って混乱を招く結果となるので、正しい知識を持つことが重要と思われます。
POINT 腸閉塞
- 術後多く見られる癒着性イレウス
- 癒着性イレウスは小腸の通過障害
- 主として大腸に作用する下剤では癒着性イレウスの予防効果はない
- 宿便性イレウス,宿便性腹膜炎は便秘のみが原因ではない
- 膨満感と便の貯留は相関しない