排泄学エキスパーツ取材
正しい座位姿勢は健やかな体と心の出発点です
看護師
芳賀理己 先生
日々の行動の起点となる「座位」
食事、排泄、入浴、睡眠といった日常の活動は、すべて「動作」と「姿勢」から成り立っています。日常生活動作への不適切な介入は体の拘縮や緊張を招き、姿勢の悪さは呼吸や消化などに悪影響を及ぼします。動かない、動くのがつらい体になると、見たいものも見られず、次第に生きる気力も削がれます。これが生活不活発病(廃用症候群)につながり、「寝たきり」の状態をつくってしまうのです。
寝たきりにならず、健やかな日常生活を送るために気をつけたいのが座る姿勢です。寝ている状態から、体の動きを無理なく自然に支え、安定した座位へと導くこと。この一連の動きこそが「離床」の始まりであり、正しい座位姿勢が保持できれば、食事や排泄、起立など、次の行動がよりスムーズになります。
足底や脚の位置に配慮した姿勢が理想
座位姿勢のポイントは、殿部、大腿部、足底の3箇所に体重がのっていることです。特に足底には「メカノレセプター」と呼ばれる感覚受容器が多数存在しており、足底をしっかり床につけて座ることで覚醒を促し、起立や歩行の準備ができます。足~膝~股の関節部の角度は90度で、脚は肩幅程度に閉じていることが理想です(図)。
この理想と真逆なのが「仙骨座り」です。体が前にずれて、仙骨付近に重さが集中するため、褥瘡リスクを高めてしまいます。いくら姿勢を直してもまた仙骨座りに戻ってしまう場合は、適切なポジションが取れておらず、ご本人がどこか不快感や苦痛を感じているサインと考えてください。例えばおむつがごわついて股ぐり部分がすっきりせず、お腹まわりがきついと、それだけで座る姿勢が崩れてしまいます。モレ防止性能に加え、姿勢の変化に対応できる伸縮性に配慮したおむつを選ぶことが、正しい姿勢づくりにも重要なのです。
学びを深め、より良いライフのためのケアを
脳卒中発症後、正しい座位保持を続けたことで、表情に力が戻り、機能回復に結びついた患者さんが多くいらっしゃいます。改善が目に見えると、看護・介護する側の意欲はより高まり、さらなるQOL向上につながります。こうした好循環を生むためには正しい知識を身につけ、実践することが何より大切です。人本来の自然な動きにそった優しい動作介助が徹底されているか、おむつの機能を活かした正しい当て方はできているか。ぜひ施設のスタッフ全員で学びを深め、より良いライフ~生活と人生~を支えるケアを進めていきましょう。
芳賀理己
日本褥瘡学会在宅ケア推進協会・北海道ブロック「WinWin動作介助チーム」の世話人副代表を務め、日常生活援助技術である「ポジショニング」の啓発に力を注いでいる。日本褥瘡学会認定師。
こちらの記事は、ユニ・チャームが病院・施設向けに配布している『ライフリーいきいき通信 2018年秋号』の内容を一部編集して掲載しています。