排便ケアの実践

生活習慣の改善による排便ケア

排便障害による生活機能の低下

ユニ・チャーム排泄ケア研究所

はじめに

ユニ・チャーム排泄ケア研究所は、2005年から排便ケアに関する調査・研究に取組んできました。便秘、下痢、便失禁に悩まされる高齢者の苦痛と、便の処理に携わる介護職の物理的・精神的負担を知ることが、おむつを開発するメーカーにとって欠かすことのできない基礎研究であると考えたからです。

おむつメーカーは、この20年来、流れる尿をいかにせき止め、吸収するかをテーマに製品を開発してきました。便は流れないという前提があったからです。尿を吸収する機能は進化し、尿がもれるということは減少してきました。しかし、昨今、泥状便や水様便によるトラブルが急増してきています。流れる便と尿が混ざった液体をいかに吸収するかという新しい課題です。尿と便では性状も成分も異なります。

例えば、私たちが製造、販売している生理用ナプキンと尿とりパッドは、外見はそう違いませんが、吸収する対象が経血か尿かで、構造も素材も違う製品になっています。尿も水様便も、そして尿と便の混ざった液体も、もらさず吸収する構造と素材の製品が求められています。しかし、おむつメーカーがこうした製品を開発すれば、問題が解決するかといえば、高齢者の排便障害は、それほど簡単な問題ではないことを、現場での調査から感じました。

高齢者の便失禁を原因別に大別すると、(1)脳血管障害による神経因性の便失禁(2)認知症や活動性の低下による機能性の便失禁(3)刺激性下剤による下痢便の便失禁といえます。私たちは、生活モデルでの改善が期待できる(2)と(3)に注目し、便失禁の実態を調査することから、現場での研究を開始しました。

排便障害による生活機能の低下

多くの高齢者は、加齢に伴うさまざまな機能低下、能力低下から便秘に悩まされています。その原因は消化器系の疾患によることよりも、食習慣や主疾患治療のための服薬の影響、日常生活での活動量の減少によることが多いといえます。しかし、高齢者施設では便秘対策として下剤が投与されることが多く、その結果、便秘→(下剤)→下痢→便失禁→(止痢剤)の悪循環が発生しています。不適切な下剤投与は、多くの高齢者に身体的、心理的、社会的苦痛を与えています。

高齢者に見られる「便秘と下痢の悪循環」

排便障害の要因は、咀嚼力の低下、食事量の減少、繊維質食物の摂取不足による「消化吸収機能の低下」、運動不足による全身の筋力低下、特に腹筋、呼吸筋の筋力低下による「いきむ・踏ん張る力の脆弱化」、寝たきりによる起立性大腸反射の低下による「腸の蠕動運動の低下」、また、仰臥位での排泄による「不適切な排便姿勢」、直腸壁への神経伝達の障害による「便意の鈍麻」、そして直腸の弾力性の低下、肛門括約筋の筋力低下による「便保持機能の低下」があげられます。そして、これらの原因でおこる「便秘」「下痢」「便失禁」の症状は、高齢者に、苦痛、不快感、不安を与えるだけでなく、生活(活動)や社会参加を著しく制限することに繋がっています。

便秘の種類と下剤の効果

便秘の種類は大きく、結腸性便秘と直腸性便秘に分けられます。便が大腸(結腸)のどこかに詰っているのか、直腸まで降りてきているが出せないで詰っているのかの違いです

亀田総合病院の神山剛一先生が、便秘を主訴に外来を訪れた332名の便秘の分類をしたところ、結腸性便秘が27%、直腸性便秘が37%だったと報告しています。高齢者に限った場合、直腸性便秘の比率はもっと高くなるはずだと神山先生はおっしゃっています。

便秘に対して処方される下剤には、酸化マグネシウム(カマ)、マグミット、マグラックスと呼ばれる緩下剤と、アローゼン、プルゼニド、ラキソベロン、センナに代表される刺激性下剤があります。緩下剤は大腸の水分吸収を減らす働きがあります。便の水分を増やすことで、硬い便を軟らかくし、便の量を増やします。刺激性下剤は大腸の蠕動運動を促進させ、便が大腸を通過する時間を早める働きがあります。直腸まで便が降りてきている直腸性便秘の場合、大腸に作用する刺激性下剤も、緩下剤も作用しないことになります。

問題は、便がどこに溜まっているかです。肛門に指を入れる肛門直腸診で、直腸に便があるかどうかを確認できます。直腸性の便秘の場合、レシカルボン座薬や浣腸、あるいは摘便が有効です。直腸に便があれば、レシカルボンや浣腸の処方で10~30分後の排便が期待できます。3~4日間排便がないからといって、一律に刺激性下剤の投与ではなく、重要なことは、便がどこに溜まっているのかを診断し、それに適した処方を選ぶことです。

高齢者に多い嵌入便(かんにゅうべん)

直腸性便秘のひとつに嵌入便があります。便がはまりこんで糞詰まりを起こした状態です。嵌入便の高齢者を側臥位にすると、肛門が開ききって、黒く固まった便が顔を出しています。嵌入便とは、肛門付近まで降りてきた多量の便が出し切れずに溜まり、大きな塊になっている状態です。また、直腸まで降りてきた便は直腸壁を刺激しますから、絶えず便意を感じながら、塊を出すことができない「渋り腹」という状態が続きます。

嵌入便に気付かず、数日排便がないと診断され、刺激性下剤が投与されるケースがあります。下剤は嵌入便には作用せず、肛門のそばの硬い便はそのまま残り、大腸にあった便が下剤に誘発され水様便となって、緩んだ肛門から絶えずもれ続ける状況になります。便汁だけが便塊の間を通ってもれ出す水様便を下痢と間違え、止痢剤が投与されることもあります。嵌入便は寝たきり高齢者に多く見られる重篤な便秘です。そして、嵌入便は廃用症候群の発症と増悪を助長します。肛門直腸診で嵌入便が確認できたら、摘便や浣腸で便の塊を取り出すことを優先させなければなりません。

寄稿:船津 良夫(1998年~2017年 ユニ・チャーム排泄ケア研究所 主席研究員)

下剤は嵌入便には作用せずもれ続ける