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排泄ケアを考える

知的障害者通所授産施設で出会った親子

ユニ・チャーム排泄ケア研究所

2005年の秋から、ボランティアで、知的障害者通所授産施設に伺うことがあります。約60名の知的障害者が通って来て、作業をする施設です。利用者は箱つくりや袋詰め等の作業を行い、月に数万円のお給料をもらいます。自宅やグループホームから通勤してくる知的障害者に、主体的に働いて生活の糧を得る労働の場を提供し、自立して社会参加ができるよう支援することがこの施設の理念です。しかし、数万円の給料で自立した生活を営むことは不可能です。でも、多くの利用者は、働いて給与を得ることに誇りを感じています。

この施設でも高齢化は進んでいます。この施設には20歳から76歳までの方が通われています。リハビリパンツやパッドの利用者もいます。その中に23歳の青年がいました。人懐っこい、明るい性格の人で、「○○さん、おはようございます。××さんおはようございます。」とみんなに挨拶します。彼は歩行が不安定なので、歩行器を使っていました。毎日お母さんが車で送り迎えを繰り返していました。排尿障害があるので、おむつを使っていました。施設のソーシャルワーカーの方が、お母さんに「男性は男性用のパッドを三角形に折って性器を包むようにあてないとダメですよ。今ちょうどおむつメーカーの人がきていますから、相談してみてください。」と言いました。ソーシャルワーカーの方は、アドバイス通りにしてくれないお母さんにちょっといらいらしていました。お母さんのお話を聞くと、リハビリパンツの中に、ベビー用のおむつを挟んで使っているとのことでした。私はお母さんの選択を評価しました。「工夫されましたね。いろいろ試されてこられたのですね」。お母さんは「そうなんです。だんだんに成長してきて、尿量も増え、動き回りますから、指導員の先生が言われるようにはいかないのです。あのパッド、このパッドと試しましたが、うまくいきません。ある日子ども用のこのおむつを挟んでみたら、モレなかったのです」。おそらく、子ども用のテープ止めのギャザーの形状や曲線がちょうどこの青年のペニスの動きにうまく合ったのだと思います。おむつの使い方にはパッケージの説明どおりにはいかない、さまざまな組合せがあります。

私が、このお母さんの相談に対応した時に、心を配ったことは、「拝聴と受容」の基本です。障害者やその家族の方に対応していくためには、基本的な援助技術のテクニックが必要です。それは、障害者の価値観や感性を尊重し、支援を展開していくための、基本的な援助技術の段階的なアプローチです。そのステップは、(1)評価的援助、(2)情緒的援助、(3)情報的援助(4)物的援助、の4段階です。まず、相手の考え方や行動を、けっして否定せず、前向きに関心を寄せ、評価することです。アドバイスするのでも、提案するのでも、根掘り葉掘り質問するのでもなく、相手の話をじっくり拝聴し、肯定的に評価することからスタートします。そして相手の制約条件や環境、状況に共感することです。つまり、情緒的援助です。

最終的に、私はこのお母さんに、「心とお肌のケアパッド女性用」と「パワーガード」をお奨めしました。2~3週間後に、お母さんにお目にかかると、「あれから、リハビリパンツと(女性用)ケアパッドで頑張っていますよ。」とおっしゃっていました。(女性用)ケアパッドのたくさんのひだにペニスが挟まり、尿の流れを変えてくれたようです。そして、私が「お母さんもいろいろとご苦労されていらっしゃいますね。」と申しあげると、お母さんは「いいえ、苦労などしておりません。この子は、私の可愛い息子ですし、この子が頑張れるように、この子の役に立つことが、わたしの大事な人生です。」と答えられました。私は、この言葉に、単に親子の愛情で片付けられない深みを感じました。

戦後の混乱期に、知的障害児福祉の開拓者として活躍した糸賀一雄は、「この子らを世の光に」という言葉を残しました。福祉とは、「この子らに世の光を」ではなく、さまざまな障害がありながらも、人間としていきいきと生きている子どもたちの姿こそ、社会の光であり、人間としての尊厳に輝いていることを見つけ出すことであり、そうあるべく支援することなのだと。世界的に有名な、強烈なノーマライゼーションのメッセージです。私は、おむつもノーマライゼーションの用具の一つだと思います。排泄に障害のある人たちが光輝けるように支援していくことは私たちの使命でもあります。

寄稿:船津 良夫(1998年~2017年 ユニ・チャーム排泄ケア研究所 主席研究員)