排泄ケアのことなら排泄ケアナビにおまかせ!

  1. トップ
  2. ケア主導の介護現場を目指して

排泄学エキスパーツ取材

ケア主導の介護現場を目指して

全国高齢者ケア協会

理事長 鎌田ケイ子先生

高齢者ケアの現場で現在、何が問題となっていて、解決の糸口はどこにあるのか、全国高齢者ケア協会の鎌田ケイ子先生にうかがいました。

介護の現場で何が起きているか?

介護保険制度の導入以降、介護施設への入所が介護度優先になったため、現在、特別養護老人ホーム(以下、特養)への新規入所者の平均要介護度が4を超える状況になっています。

介護施設は病院ではありませんが、要介護者の重度化にともない介護職が医療行為をせざるを得ない状況が増えたため、平成22年度から特養に限り、介護職が吸引と胃ろうの一部の医療行為を行うことができるようになりました。しかしそれは、介護職の現場がより大変になったことを意味しています。

高齢者になされているケア

重度の要介護者ケアにおいて「食べる」ことと「排泄する」ことは重要な要素です。食事と排泄は生活の基本であり、「口から食べること」、「トイレで排泄すること」ができていれば、生きている実感を持ち続けることができます。また、この2つが適切に行われていれば、肺炎の再発や尿路感染症なども防ぐことができ、廃用症候群へ到ることを避けることもできます。

しかし、介護度が高まったとき、多くの現場で胃ろうが行われていたり、おむつが使われることは珍しくありません。

特に、肺炎などで一旦医療施設で治療を受けた場合、入院前は自分で食べ、トイレに行っていた高齢者が、退院時には胃ろうを造設され、おむつをつけられて帰って来るケースが少なくないのです。そして、退院できたにもかかわらず、胃ろうとおむつによるケアが介護施設でも継続されている現状があります。

肺炎などの病気が治っていても胃ろうやおむつで介護される状態が、高齢者にとって好ましい状態なのでしょうか。「口からはもう食べられない」、「トイレではもう排泄できない」と高齢者や家族が感じたとき、介護の現場は高齢者に、「輝かしい人生を生きている」という生活実感を提供できるのでしょうか。

高齢者の生活の質を守るには

人は誰でも死に向かって生きています。老化は生理現象であり、病気とは異なるため、医療で治せるものではありません。若者とは生理が違う高齢者が肺炎などの病気になったときに、医療によって症状だけを治すのは果たして自然に則したことなのでしょうか。医療職は患者の命を守ることが使命だと考え、その結果として入院前にはなかった胃ろうやおむつを使われることが、高齢者の生活の質(QOL=Quality Of Life)を損ねていることもあるように思えます。

最も大事なのは高齢者本人がどう生きたいか、どのような生活のもとで死を迎えたいかという意思であり、医療職に死を回避するのではなく、死を支える看取りの医療という視点が必要になっているのです。

介護職には判断が難しい

しかし、介護の現場では医療に振り回されているのが実情です。前述のように一度病気になって医療行為を受けた高齢者が退院してくると、ADL(Activities of Daily Living=日常生活動作)が1段階落ちていることが少なくありません。 高齢者のQOLを守ろうと思っても、介護職の方々には医療の知識がないため、再び口から食べさせたり、トイレで排泄するためのリハビリをしていいものかを判断することは非常に難しいことです。

たとえば排尿障害に関して、医師が膀胱機能評価から、おむつがやむを得ないのか、泌尿器科の治療が必要なのか、診断しているケースはほとんどありません。理学療法士からトイレに行くためのリハビリの指導もほとんどありません。

介護職は高齢者の生活機能回復とQOLのためにトイレで排泄するリハビリを進めたい気持ちがあっても、もし自分が介助したときに倒れて怪我したらどうすればよいかなどの不安を抱えてしまいます。

そこで必要なのが、介護と看護の連携と協働です。

看護師の方々に考えてもらいたいことは、(1)医療情報をもとに高齢者にとって最適な生活援助は何かを判断すること、(2)介護職に必要な医療や病気の知識の教育、(3)介護職の専門性を尊重することの3点です。

医療も介護も現場の人手不足が問題となっていますが、こうした状況のときこそ介護と看護が連携し、無駄と隙間をなくすことが重要です。

総合的な判断で、ケア主導を

口から食べることにしても、トイレで排泄することにしても、介護職、看護師、あるいはリハビリをする理学療法士などがそれぞれの現場での状態を見て、根拠を持って判断することが大切です。それぞれが意見を述べあって総合的に判断するということです。

そのうえで、介護職の方々は自分たちのやり方に自信を持つことが大事です。介護と看護の連携が必要と述べましたが、高齢者ケアにおいては、主導はキュア(医療)ではなくケア(介護)であるべきだと考えます。全国高齢者ケア協会は、高齢者ケアにおける「介護と看護の連携」をテーマに研究活動を行い、そのためのマニュアルをつくりました。さらに新たなテーマとして、「ケア主導の看取り」のためのマニュアルづくりに向けた活動を展開していきたいと考えています。

ケア主導のあり方は、いかに高齢者のQOLを高めるか、生活・生命の長さではなく質を高めるかということと、高齢者主体で本人の持っている力を引き出すことです。

ケア主導の現場を確立するためには、利用者支援の基を担っている介護職のリーダーシップの養成が必要です。例えば、介護職の給与体系も改善しなければなりません。介護を志す人々に希望を与えること、介護福祉士の資格取得を目指す人材を増やすこと、将来的には介護福祉士が介護施設の施設長であることが当たり前になるような現場が、21世紀の高齢者介護に求められる姿ではないのでしょうか。

鎌田 ケイ子

東京大学医学部衛生看護学科を卒業。その後、心臓血管研究所、東京女子医科大学高等看護学校などを経て、1975年から2003年まで東京都老人総合研究所に勤務。35年間にわたって老年看護研究のパイオニアとして老年看護・高齢者ケアの確立のために貢献。1993年に全国高齢者ケア協会の前身である全国老人ケア研究会を有志と設立し、現在、全国高齢者ケア協会理事長。

主な著書に『高齢者ケア論』(高齢者ケア出版)、『フローチャート式ケアプランの立て方(在宅用・施設用)』(高齢者ケア出版)、『痴呆ケアマニュアル』『介護と看護の連携のためのマニュアル』(高齢者ケア出版)、『尿失禁ケアマニュアル』(日本看護協会出版会)など多数。